あれは祖母の家の台所。なにがきっかけだったか、お菓子作りの得意な従姉から手ほどきを受けたことがあった。じゃあ、まずは卵を白身と黄身に分けるわよ、と鮮やかに手本を見せてくれた。ボウルに白身を受け止めながら、黄身だけを左の殻、右の殻、と注意深く移動することでこの二つを分けることができる。それは私には初めての作業だった。それにしても、肝心の、あの時何のお菓子を作ったかが記憶からすっぽり抜けている。40年ほど前のことだっただろうか。卵の記憶だけが鮮やかだ。
クイーン・オブ・プディングはイギリスの伝統的なお菓子だそうだ。最近は気が向くと、その時々に気になっていたお菓子を作ってみる冒険に出る。メレンゲをたっぷりのせた焼きたてを一口、ふわりと甘酸っぱいレモンの香味が、懐かしい思い出のように広がった。