炬燵にすっぽりと入りながら、コーヒーやミルクティーなど啜るのも悪くない。それでも、ふとどこかに行きたい心持ちになることがある。明るい冬晴れの日にこそ外出すればいいものを、気が向くのは北風が斜め横に強く吹き始め、雪が混じってくるような鉛色の空の日だったりするから、捻くれたものである。
その店を前回訪れたのはホリデイ・シーズンの頃で、入り口に置かれたツリーに大きな松ぼっくりだけが飾られていたのが、すがすがしく印象的であった。その頃からは春先に向かって確実に季節が進んで、もう一月も末である。久しぶりにドアを押せば、明るいおしゃれな店内にやわらかい午後の陽が入り、奥の小上がりでは、ご高齢の方々がのんびり過ごしている。BGMに美空ひばりなどが流れていることにちょっと驚くが、これがまた格段に心地よい。
みんなが自分の部屋であるかのように、思い思いに過ごせる場所。そういえば先日は、お母さんに連れられた丸々とした赤ちゃんがくつろいでいたっけ。温かいカフェラテを飲み干した後も、なんとなくゆるりとした気分の余韻に浸りながら、夏になったらうちのカフェでも江利チエミを流そうか、八代亜紀のジャズもいいな、とかそんな風なことを考える。「今日はあの店に」と気合を入れて出かけるのも心地よい緊張感があったりして楽しいものだが、普段着のまま、もう一つの部屋に帰るようにさりげなく腰掛けられる場所に、ふらりと出掛けるのもまた幸せなこと。よいしょと立ち上がりお会計を済ませると、お店のお二人がそれぞれの作業の手を休めて、ドアの傍まで笑顔で見送ってくれた。