農園のあるこの町に居を移して、初めに直面したのは水回りのいろいろな事柄だった。まずはお風呂の工事。これは早いうちからお願いをしておいたこともあったし、何より担当の方がとてもスピーディーに動いてくださったのですぐに施工していただけた。問題はそのあとやって来た。住み始めて数日経ってから、はて、これは、と頭を抱えた台所の排水の問題。洗い桶一つ分ほどの水を流すと、あとはもう、排水溝が塞がってしまったのかと思うほど流れてゆかない。日々必ず使う場所なだけに、これにはお手上げだった。
幸いなことに、地元の水道屋さんがすぐに駆け付けてくださった。ある日は半日近く、またある日は一日がかりで、最新機器を駆使しいろいろなアプローチと方法で、本当に根気強く丁寧に原因を突き止めてくれた。配管を調べるために台所のタイルの壁に穴を明けてケーブルを通すと聞いたときには、このお気に入りのレトロなタイルが一面崩されてしまうのかと怯えたが、大工さんは最初からそこに取り付けてあったかのような、タイルを生かしたすっきりとした扉をあっという間に拵えてしまった。そんな職人さんたちによる懸命な仕事の結果、冷たいそうめんをいくらでも茹でこぼすことができるほど排水のスムーズな台所が、ついに現れた。これまで水が流れる、水を流せるということがこんなにありがたいことだったのか、と思ったことはない。申し訳なかったのは、我が家の頑固な排水詰まりを相手にしてもらったばかりに、導入されたばかりの新しい機器を破損させてしまったこと。それにしても、このあと半月ほどしてから今度は農園の井戸の具合が悪くなり、なんとも「水」に翻弄される春から初夏のスタートとなった。(こちらは園長が粘って見事に解決。)
農園を軸にして、生活の拠点も寄り添うようにそこに置くことになって、まだそんなに時間が経たぬ中で既にたくさんの方のお世話になっている。暮らし方は以前とは比べ物にならないほどにコンパクトに、かつ濃くて快適になったためか、この町との距離がこれまでよりもずっと近くなったと感じる。町内にはおひとり、または少ない人数で頑張っていらっしゃるお店なども多く、ついついシンパシーを感じてしまう。車で通り過ぎていた時分には気が付かなかった、味わいある個性や人情深さなどがきっとこの町には息づいている。