紙の媒体が好きである。中でも、町角などで目にする無料の情報誌などは大好きである。ネットも便利に使うけれど、紙に載った情報を1枚1枚めくりながら、または目を惹かれた記事から、ぽつぽつと読んでいくのが好きなのだ。この沿線にはこんな喫茶店もあったんだ、とか、ああ、あの図書館で面白そうな企画展をするのだな、など、記事の中に輝きを見つけるのはまるで宝探しのようだ。そして、これはと思うものは大切に切り抜いておく。時々訪れている気になる喫茶店にはそんなふうにして出会った。
小学校3、4年生の頃、きっかけは学校の授業だと思ったが、興味ある新聞記事を見つけて切り抜くという作業をした。それ以来嵌ってしまい、気になる書評や目を引かれた広告、美術展の記事など、心惹かれたものをスクラップ帳に整理するようになった。いまはだいぶその分量が減ったけれど。ピーチ・メルバというおしゃれなお菓子があることを知ったのも、ラッフルズ・ホテルで生まれたカクテルの名前を知ったのも新聞の連載記事でのことだった。
紙媒体は場所をとる。そこでの時の流れも、ネットに比べればゆったりしているかもしれない。その時は生き生きとした情報でも、しばらく経ってそれを目にしたとき、その場所はすでにもう存在していないということもあるだろう。しかしかつて存在したその情報が欲しい時もあるのだ。町角で情報誌を目にしたなら嬉しく手に取り、好きな時に広げて読む。そうして紙の手触りやにおいや、時の流れにたゆたうようなきらきらとした情報の破片も含めて、畳んで引き出しにしまう。また出会う時のために。