さまざまな専門店の並ぶ商店街の魅力は、店舗ごとに目利きされた品物が並び、お店との距離が近くて親近感があることだったり、個性豊かだからこそ買い物自体が楽しい、ということだったりするだろうか。もしその日に買うものが決まっておらず、明確な目的がなかったとしても、その店に行けば何か良いものがあるのではないか、そこにしかないものがあるのではないか、今日はどんな品物に出会えるだろうかという期待感がある。子供の時分、住んでいたあたりにも商店街があり、時々親の買い物について行っては、探索するようなワクワク感を楽しんだ。
たいがいは、布地や刺繡糸、お遣い物のお菓子や文房具などをそれぞれの店舗で買い求めるのだが、その帰り道にも大いなる楽しみがあった。T字路交差点角の焼き鳥屋さんからは、通りかかると店の外までいい匂いがふんわりとただよっていて、夕暮れ時ともなればおなかの虫がくすぐられた。ここに寄り、あのタレのからんだ焼き鳥を包んでもらう。温もりの伝わってくる茶色い紙袋をしっかりと抱えて、何とも食欲をそそるいい匂いに包まれながら帰途を急ぐ。
時が流れて、転居等もあってその焼き鳥屋さんからも商店街からもだいぶ長い間離れてしまった。とはいえ、まるで好きだった同級生を思い出すかのように時折ふっと、あのお店まだあるのかな、などど、あのタレの匂いが恋しくなった。だいぶ後になってから(それは割と最近のこと)、友人夫妻から嬉しい焼き鳥の差し入れがあったのだが、なんと件の焼き鳥屋さんのもので、友人も大ファンだというのを知った。その温かい茶色の紙袋に包まれた焼き鳥をありがたくいただき、店がいまも健在であることにも感謝した。
今晩焼き鳥が食べたいと娘からリクエストをもらったこともあるが、やはり、無性にあの味を食べたくなれば自分から行動を起こすものだ。初めて電話し、希望の数や受取りたい時間などを伝える。明るく親切に対応してくださったから、ますます焼き鳥に期待が高まる。店に到着すると、赤ちょうちんの灯とあのタレの匂いが、昔と同じように出迎えてくれた。かくして、じんわりと温かい、ごちそうがいっぱい詰まった茶色い紙袋を大事に受け取るのだった。あの味を再び味わうまでの、ワクワクするカウントダウン。それは子供でも大人でも、いつの時代でも変わらない。