自分が「もうマスターしたこと」、「やってみたことがあるから安心なこと」、そんな経験がたくさんあれば人生を歩んでいく上では確かに心強い。現に私も、例えば人前で1曲歌わなければならない時などは、何度も歌ったことのある曲を選びがち。もっと自分の瞬発力に甘えて、それを楽しみたい、と思う。今までとはちょっと違うアプローチで臨んでみれば、また別の新鮮な驚きや手応えに出会えるのではないか、と思うから。
それはお菓子を作る時にも言えること。慣れたレシピや手順と向き合うのは確かに気持ちがほっとする。だから時にはそこからちょっと離れて、その時のひらめきや新しいことに挑戦する気持ちも大切にしたい。例えばシフォンケーキ。このケーキは私にとってはいろいろと関門が多い。オーブンの中で、もこもこといい感じに膨らんでいても、型から外すのにナイフでがりがりとやって、変に削ってしまったり。それで、半信半疑で初めて「手外し」に挑戦してみた。型の側面から、ケーキをぎゅっぎゅと押し込めながら、道具を使わずに外してゆく。これが意外とスムーズにいき、まずまずの仕上がりになったのには驚いた。
せっかく出会ったひとつひとつの機会。そこでどんな歌が歌えるか、どんな表現ができるか。それはどんな自分に出会えるか、ということでもある。そんな「今、その時」の時間のつながりが、そこから先の自分を支えてくれる。