昨年の夏のある日。男助山に雲がかかるとね、と彼女は農園から眺めることのできる、なだらかなおにぎりのような形をした山に目をやりながら教えてくれた。この辺りは雨になるのよ、と。それ以来農園にざあざあと雨が降ると、すっかり雲に覆われた男助山の方向を眺め、ああ本当だ、と思うようになった。あるいはぽつぽつと雨粒が落ちてくると、男助山はどうなっているのかしらと眺め、ぼんやり雲の中に入っていくのを確認し、これから本降りになるかもしれない、と予想するようにもなった。

今年の夏のある日。朝、目を覚ました瞬間にね、と彼女はコーヒーを手にしながら笑顔で続けた。その日に何をするかを直感で決めるの。パッと起きて朝市に行ったり、お昼ご飯を外で食べることにしたり。いろいろよ。

冷房のないオープンなカフェにとってはなかなかに暑さのしみる夏だった。そんな日が続いても、そんなことをものともせずに、ゆっくり日陰の屋根の下でコーヒーやお菓子を楽しんでくださるお客様の存在が嬉しかった。そしてそんなひと時に、さらりと交わす会話から、きらっとした生き方のヒントのようなものをいただける瞬間がありがたかった。気分が乗る日、乗らない日。あちこち行動したい日、ゆっくり過ごしたい日。または、何もする気がおきない日。一年中すべてがバイタリティにあふれた日ではないのはよく知っている。

ブルーベリーシーズンが終わって、暑さと涼しさが交互にやって来た。このしっとりした秋、最近は夏の間は向けられずにいた好奇心がいろんな方向にのびている。ちょっと気になる場所、お店、本、花の名前など、手近な紙に書き留めていたらだんだんと枚数が増えてきた。これはと思うイベントに足を運んで、ちょっと期待していたものとは違ったな、と思うこともあるけれど、暮らしのヒントはなかなか向こうからは訪れてはくれない。夏だけ農園を訪れてくださる彼女に、秋や冬は、どんな風にして過ごすのですか?と聞いてみたい。きっと、これからのぎゅっと身の縮むような朝にも、その日にすることは目を覚ました瞬間に直感で決めるの。そして行動あるのみよ、と仰るだろう。その直感の力と勢いを見習いながら、走り書きを書き溜めながら、自分を肥やしてゆこうと思う冬の入り口の日々である。

SHOP INFO

営業時間

7月上旬〜9月上旬10:00〜16:00【定休日:期間中無休】

10月〜6月は閉鎖期間のため営業しておりません。

オープンカフェのため天候等により臨時休業する場合があります。

住所

岩手県岩手郡雫石町七ツ森129

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