子供時代の自分に寄り添ってくれた本はたくさんあるが(それはとてもしあわせなことだとしみじみ思う)、このクリスマスシーズンに、とある図書館でそのうちの1冊と長い長い時を経て再会した。時期的に、フロアの真ん中にはサンタクロースやクリスマスに関する絵本が集められ、所狭しと展示されていた。手に取り頁をめくると、そりにたくさんのプレゼントを積んで、いざ出発しようとしているサンタおじさん。子供の頃その絵本を眺める時、心躍ったのはそのプレゼントの描写ではなく、やわらかな雪の積もった、煙突がにょきにょきとある屋根たちでもなく、サンタおじさんが奥さんから持たされた温かいコーヒー(緑の水筒に入っている)と、箱に詰められたサンドイッチの絵なのだった。その当時、遠足などで水筒に入れてもらえる飲み物と言えば、我が家では麦茶一辺倒。そして持たされる食事はおにぎりと、ほぼ決まっていたから、サンタおじさんのサンドイッチをうらやましく思った。
あれはピクニックだったのか記憶が不明瞭だが、ある親戚の一家にくっついてどこかに連れて行ってもらった時、大きな水筒に入っていたのは温かい甘い紅茶だった。アーモンドに飴がけした珍しいお菓子もあった。子供心に、うちとは違うなあ、洒落ているなあ、そんなことを思ったものだった。
あの頃、私にとってコーヒーは「大人の飲み物」であったから、極寒であろう屋外でサンタおじさんが飲む温かいコーヒーの味は想像できなかったけれど、いまはちょっと出かけた先で、そして農園作業の合間に、広い空の下で温かい飲み物を味わう機会がしばしばある。屋外で風を感じながら食べるおやつは、特別なものでなくても一層おいしく感じる。緑の水筒には入っていないけれど、負けないくらいおいしい温かい飲み物を楽しむ時間を、大人になった私は時々ゆっくり手にしている。